大学で学ぶ「社会人基礎力」か、短期の講座で習得する「就職基礎能力」か――。経済産業省と厚生労働省が、若者の職業能力を測る指標作りで張り合ってい る。「職業人意識」や「主体性」など、企業が求める能力を明確にし、授業や就職活動に役立ててもらう試みだ。いずれも就職をめざす若者と企業が求める人材 とのミスマッチを防ぐ狙いだが、さて、浸透するだろうか。
経産省は今年度から、「社会人基礎力」の育成に取り組む大学への助成を始める。企業の人事部門などへの調査をもとにまとめたもので、「企業のニーズを明確にし、大学と企業が一緒に取り組みやすいようにする」という。
モデル校を5~10校指定し、1校あたり500万~1000万円を支給。評価手法の研究のほか、企業と共同で商品の販売戦略を立案する実践型授業など、基礎力育成のためのカリキュラム作りを進め、全国の大学に広げたい考えだ。
一方の厚労省は3年前、「就職基礎能力」という指標を考案。専門学校などの講座や試験を認定し、修了後に厚労相名の能力証明書を交付している。
たとえば、責任感や向上心の習得をめざす「職業人意識」講座の教科書には「時間を守れないと周囲が困る」「病気になってはいけない」など の項目が並ぶ。1指標につき10時間程度の授業をし、入社後の場面ごとに適切な行動パターンを説明する。これまでに約56万人が修了した。
企業の採用意欲は回復してきているが、志望先が明確にならない学生は少なくない。両省とも少子化などで実社会への適応力が低下したとみて、企業が求める「能力」を指標化し、就職前の教育で補おうというわけだ。
ただ、経産省は厚労省の取り組みに対し「短期間の講座で基礎力は身につかない。企業の認知度も低く、能力証明書も就職活動に役立たない」。厚労省は「就職支援には、能力が身についたかどうかを証明することが大切だ」と反論する。
東京学芸大の浅野智彦准教授(若者文化論)は「すでに過剰なまでに企業のニーズに応えようとする学生が増えている。国が企業の望む能力を明確にし過ぎることは、基準から落ちた若者の挫折感を深くするばかりで、ミスマッチ解消の効果は薄い」と話している。