「労働組合を立ち上げたい。協力してください」
はっきりそう伝えるメールを同僚に送った。そうして組合員は30人に増えた。映画『七人の侍』で、侍に野武士との戦い方を教わった農民みたいだった。会社側に気づかれずに組合を作るのに、SNSと携帯のチェーンメールは大いに役立った。
非正規の若者たちのメーデーのデモをきっかけに生まれたのはフリーター全般労組だ。
「ちょっと遅刻しただけでバイト先をクビになった」
デモに参加した若者が話すのを聞き、執行委員長の大平正巳さんは、個別相談に応じる場が必要だと感じた。
「労働基準法ではアルバイトでも正当な理由なく解雇できない。権利を知らずに泣き寝入りしている人がどんなに多いか」
私は正社員、新しい労働運動なんて関係ない――。そう思っている読者がいたら、グローバル化の時代認識を誤っている。共産主義の恐怖がなくなった今、資本主義は「強者必勝」の本来の姿に回帰している。立命館大の高橋伸彰教授(日本経済論)が言う。
「グローバル化で、企業は世界中から安い労働力を調達できるようになった。先進国の労働者は途上国の安価な労働者とポストを競うことになる」
実際、台頭する中国やインドでは技能労働者が育っている。
「日本の正社員も、いずれ彼らと競争することになり、待遇はじりじり下がるだろう。国内で正規/非正規と言っている場合ではない。大資本に対抗するには労働者も力を持たないと。国際的な連帯、生活者との連帯が必要です」
自己増殖する巨大資本=怪物リバイアサンに対抗する手だてがなければ、働く者すべてがじきにのみ込まれる。
徒手空拳で立ち上がる「もっとも弱き者」の連帯。新しい闘いの可能性は、そこにこそあるのかもしれない。